理系女子の増やし方【ブログ】

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理系女子の増やし方【ブログ】

背景と課題

日本の工学部・理学部の女子比率はOECDの中で最も低く、それぞれ15.7%、および27.8%。仮にOECD以外の国を含めるとさらに順位を落とす。また、理学系に至ってはOECD諸国の女子比率平均は50%に達しており、日本はSTEMのジェンダー平等において大きな遅れをとっているといえる。

近年「リケジョ」という言葉の流行(?)とともに、理系女子を推進する施策は増えているように見える。しかし結果はどうか。この10年間での工学部の女子比率の増加は4.5ポイント、理学部では1.9ポイント。あまり増えているように思えない。公平性のために伝えると、G7に含まれる先進国はどこも結構頭うちはきている(それでもベースラインは日本より高い)。

なぜ理系の女性は増えないのか?女性の比率はあがらないのか?この記事では、Waffleとして1年間活動して得た知見やデータをもとに、現時点での仮説とそれに合わせた解決策を提示する。

理系女子施策を振り返る

さて、現状で行われている理系女子増加施策にはどのようなものがあるか?内閣府では「リコチャレ」というプロジェクト名で特設ページが設けられ、毎年多くの大学とともに女子中高生を対象として色々な施策を打っている。また、「全国ダイバーシティネットワーク」という文部科学省と女性研究者を取り巻く研究環境整備や研究力向上に取組む諸機関をつなぐネットワークでは、「理系をめざす女子小中高生向けの取組」として大学の夏の女子向けオープンキャンパスなどを毎年特集している。

他にも企業が女子向けワークショップを開いたりと、今まで以上に理系に女子のカラーを入れる取り組みがなされてきた。

これらの取り組みに共通して言えるのは、①女子中高生を対象にしている、②理系イベントとして集客をしている、ことである。

女子の文理選択に関する仮説

ここで、女子の文理選択に関する仮説およびそれを支えるデータを紹介する。効果的に理系の女子比率をあげるためには、女子が文理選択する仕組みを理解している必要があると考えるからだ。

その仮説とは、「女子中高生の外部環境、すなわち保護者や学校の先生、およびメディアのもつジェンダーバイアスが、女子中高生のもつ文系・理系のイメージに大きな影響を与え、その結果彼女たちが文系・理系を選択する」というものである。すなわち、文理選択という出来事の裏には「保護者・先生・メディアのジェンダーバイアス→女子中高生の文理性向→女子中高生の文理選択」という一連の流れがあるということだ。

この仮説は平成29年度内閣府委託調査がわかりやすく図示し、そのいくつかをアンケート調査により検証している。また、その他の本や研究でも部分的に明らかにされている。

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出典:平成29年度内閣府委託調査『女子生徒等の理工系進路選択支援に向けた生徒等の意識に関する調査研究』調査報告書」(平成30年3月 株式会社リベルタス・コンサルティング)

理系の女子比率をあげるために必要なこと

したがって、女子の文理選択に関する仮説の上流にいる「保護者・先生・メディアのジェンダーバイアス」への施策なしには現在の理系の女子比率を変えることは難しいと考えられる。現在行われている女子中高生への施策というのは、「①女子中高生を対象にしている」として指摘したとおり、仮説でいう下流のほうにあたる。上流で与えられるジェンダーバイアス・ジェンダーステレオタイプを生き延びたものやそれを与えられなかった者だけが、理系を選択肢と考えているならば、上流での堰き止めを解除する必要がある。

しかし、「ジェンダーステレオタイプ」は長年の積み重ねによってできるものであり、一朝一夕に変わるものではない。そこで提案したいのが2つめの施策で、「STEMへの関心がない学生を取り込むこと」だ。これは「②理系イベントとして集客をしている」への指摘への対応だ。上記の仮説が縦を広げる施策なら、こちらは横に広げる施策である。これは何も特別なことを言っているわけではなく、ビジネス用語で言うと「キャズムを超えろ」に近い(参考)。理系の女性を増やしたい、しかし理系に興味がある学生は少ない、ということは自明なのだから、ガチガチの理系ではない入り口を作る必要がある。

これで成功しているのが、アメリカのカーネギーメロン大学やハーベイマッド大学のコンピューターサイエンス学部の男女比率だ。ともにこの10年で50%近くまで上昇し、今やほぼ男女の数が同じになっている。彼らは、プログラミングのバックグラウンドを問わず、問題解決に興味のある学生を募ったり、入門レベルの授業を増やすことで、コンピューターサイエンスへの門戸を広げていった。(参考

さらに日本ではLife is Tech!という中高生向けのプログラミング教室が、プログラミング教室事業の中で唯一、生徒の男女割合がほぼ半々にもっていくことができている。彼らの広告をみるとわかるのだが、「夏休みの楽しい思い出」というイベント的な位置付けや、「映像作品を作ろう!」などとっつきやすいデジタルコースを作成することで、従来の「プログラミング=ギーク」のイメージとは全く異なるブランディングで広いオーディエンスを獲得している。

ここで自分たちの話を持ち出すのも恐縮だが、Waffleでは年に1度、アメリカのNPOが主催する「Technovation Girl」という、モバイルアプリで社会課題を解決するテック起業コンペへの出場を支援している。アプリ開発は必須ではあるが、目的はアプリ開発にあらず、問題を解決することだ。2021年度には初めて20チームという枠(学生60人)を応募したのだが、ここに180人を超える応募があった。実に3倍だ。角度を変えたら興味を持つ人の裾野はぐんと広がる。

「向き・不向き」について

最後に、本論とは関係ないが、理系女子増加の議論において必ず現れる「向き・不向き」について言及しておく。よく言われるのは「女子は理系ができないからいかない」などであるが、それこそがステレオタイプだ。

国際的な学力調査、TIMSS(数学と科学のテスト)およびPISA(数学、科学、読解のテスト)の結果からは、日本では男女で大きな差はみられない。学年によって男子の方が高かったり、女子の方が高かったりする。それどころか、日本の女子の数学の点数は、女子だけで世界7位、科学は同6位と非常に高く、諸外国の男子学生よりも高いことがわかる。したがって、私たちとしては「女子に理系の能力は存分にある」と結論づけている。

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 出典: [PISA 2018 Education GPS Japan](https://gpseducation.oecd.org/CountryProfile?primaryCountry=JPN&treshold=10&topic=PI) および [TIMSS 2019](https://timss2019.org/reports/achievement/)

まとめ

理系女子を増やすには何をすべきか?学生の文理選択が周囲の環境のステレオタイプによるものであることに着目し、保護者や先生のジェンダーステレオタイプを意識させるとともに、現時点で理系に興味をもたない学生に対して、理系と他のドメインを掛け合わせた施策などを打ち、より多くの学生にリーチするべきだ。Waffleでは前者を政策提言を通じた長期的な取り組み、後者を女子中高生対象のプログラムとして実施している。学校関係者や事業者の方で興味のある方はぜひ連絡してほしい。一緒に新しい変化をおこしていきたい。