日本政府「骨太の方針2024」および「女性版骨太の方針」にIT分野を始めとする理工系分野の女性増加に向けた取り組みが明記〜地方を含めた中高段階の理系的体験格差の解消と、理工系女性の増加を目指して〜

Close the gendergap

Created with Sketch.

日本政府「骨太の方針2024」および「女性版骨太の方針」にIT分野を始めとする理工系分野の女性増加に向けた取り組みが明記〜地方を含めた中高段階の理系的体験格差の解消と、理工系女性の増加を目指して〜

 IT分野のジェンダーギャップの解消を目指す特定非営利活動法人Waffleは、2024年6月21日(金)に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024(通称:骨太の方針)」、6月11日(火)に決定された「女性活躍・男女共同参画の重点方針(通称:女性版骨太の方針)」において、Waffleの提言する「IT分野を始めとする理工系分野の女性を増やす取り組み」について明記されたことをお知らせします。

 IT分野のジェンダーギャップは、日本国内の制度や社会構造上の課題が多く存在し、根本的な解決のためには構造変革が必要不可欠です。そのため、Waffleでは、2019年の団体設立以来、女子およびノンバイナリーの中高生・大学生向けの教育事業を推進するとともに、政府に対して制度改革や構造変革の提言を積極的に行ってきました。
 その結果、今回、2021年から4年連続で、政府の重要課題や翌年度予算編成の方向性を示す「骨太の方針」に、理工系分野の女性を増やす取り組みについて明記されました。
 今後の日本の社会基盤として重要なIT分野では、ジェンダーギャップの解消が喫緊の課題となっています。この課題を解決するために、産学官が連携し取り組みを進めることが期待されています。

■主な提言と明記された内容

 今回、骨太の方針の「第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現」「6.幸せを実感できる包摂社会の実現」「(1) 共生・共助社会づくり」の女性活躍の項目に、以下の内容が盛り込まれています。

「また、IT分野を始め理工系分野の大学・高専生、教員等に占める女性割合の向上に向け、女子中高生の関心を醸成し、意欲・能力を伸長するための産学官・地域一体となった取組や大学上位職への女性登用等を促進する。」

「男女共同参画の視点に立ち、政策決定過程への女性の参画を促進するとともに、政策・事業の計画、実施等に当たって、男女別の影響やニーズの違いを踏まえることとし、必要な男女別のデータ収集・分析を強化する。」

 詳細は、「経済財政運営と改革の基本方針2024」をご覧ください。

 上記に加えて、女性活躍・男女共同参画の取組を加速するために政府決定し、各府省の概算要求に反映する「女性版骨太の方針(女性活躍・男女共同参画の重点方針)」においても、「Ⅰ 企業等における女性活躍の一層の推進」「(3)科学技術・学術分野における女性活躍の推進」に、以下の内容が盛り込まれています。

 ①女性が少ない分野への進学者増に向けた取組の推進 
 ②「「理工チャレンジ」プログラム(モデル)(仮称)」の作成等 
 ③女性デジタル人材育成に資するインターンシップの普及
 ④次世代の女子中高生・大学生を対象としたプログラミング教育の機会の提供
 ⑤教育委員会や男女共同参画センターとの連携
 ⑥職業における将来の具体的な活躍イメージの周知・広報
 ⑦大学等における女性登用の促進

 詳細は、「女性活躍・男女共同参画の重点方針」をご覧ください。

■提言の背景

 日本の女子(*1)の学力は、経済協力開発機構(OECD)の国際的な学習到達度調査「PISA」において、他国と比較してもトップレベルです。一方で、高等教育機関の工学分野の入学者に占める女子の割合が、OECD加盟国77か国中で最下位であり、ICT関連に関心がある15歳女子の割合も3.4%という状況です。
 この背景には、進路や文理選択を考える中高生段階において、教師や保護者など周りの大人による「女子は文系/男子は理系」といったジェンダーステレオタイプに基づく指導や、新しい分野であるIT分野の仕事へのイメージが沸きにくいこと、女性・ノンバイナリーのロールモデルとの接点が不足していることなどが考えられます。
 Waffleでは、過去5年間のプログラミング教育活動から得た知見を基に、「骨太の方針」において理工系女性の育成について明記していただくよう働きかけてきました。その結果、理工系女性に関する施策の優先順位を高めることに力を注いでいます。

 今回、Waffleが提言した重点内容は、以下の通りです。

 <骨太の方針>
 ①理工系分野の女性の育成に取り組むこと
 ②地域一体という観点を入れること
 ③高等教育機関の理工系の女性教員の増加に取り組むこと

 「骨太の方針」において、Waffleが全国の中高生に提供してきた「Waffle Camp ホームタウン(*2)」の参加者の7割近くが保護者や学校の先生に勧められて参加しています。地域の大人がIT教育の重要性を理解することが課題解決の鍵となるため、地域一体となってITを活用したプロダクト作りの機会を提供することを提言しました。
 また、高等教育機関における理工系の女性教員を増やすことを提言しています(*3)。

 <女性版骨太の方針>
 ①理工系分野の女性育成について、具体的な施策に取り組むこと 
 ②ロールモデルに触れてもらう機会を増やすこと
 ③女性デジタル人材において、大人だけではなく中高生のプログラミング教育の段階からポジティブアクションを行う必要性があること
 ④インターン時にポジティブアクション行うこと

 「女性版骨太の方針」については、理工系の女性育成に向け、さらに具体的な施策に取り組むことを提言しました(①)。
 現在、内閣府は「STEM Girls Ambassadors」制度を通じて、女性ロールモデルの認定や全国での講演を行っています。これらの好事例をオーストラリアをはじめとする海外(*4)のように規模を拡大し、より多くのロールモデルを認定し、全国各地での講演や出前授業が行われる仕組みが構築されるよう提言しました(②)。
 政府は、2022年度から「女性版デジタル人材育成プラン」を策定・推進していますが、大人向けのデジタルリテラシー教育が主流であることから、今後は、高度デジタル人材育成のためには早期からの教育が必要と考え、女子中高生に対するプログラミング教育の強化の必要性についても提言しました(③)。
 2030年に最大79万人不足すると予測されているIT人材(*5)を充足させるためには、未経験からIT業界で働く機会を広く提供することが必要です。そのため、海外や日本の一部の企業で行われている(*6)大学生をデジタル人材として育成するインターンシッププログラムを拡大することを提言しました。これにより、多様な人材がITエンジニアとして就業することや、イノベーションの創出にもつながると考えられます(④)。

  今後も、Waffleは、全国でのプログラミング教育活動を通じて得た、実際の現場の声を元に政策提言し、IT分野のジェンダーギャップの解消に向けて尽力してまいります。

■ご参考情報(これまでのWaffleの提言が明記された文章)
●2021年度
IT分野を始めとした理工系分野において、特に女性の身近なロールモデルを創出するとともに、本分野の女性教員の割合を向上する取組を進める。学校推薦型選抜や総合型選抜に女子を対象とする枠の設定やオープンキャンパスの実施、女子学生向けのSTEAM 教育拠点の整備、理系分野で優れた業績を残している女性研究者の話を聞くことができる機会の充実等の総合的な支援策を講ずることにより、地方大学を含めた理工系学部における女子学生の割合の向上を促す。
参考URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000061202.html

●2022年度
ジェンダーバイアス解消のための総合的な理解の醸成と支援を図り、女子中高生のIT分野を始めとした理工系の学びや分野選択を促進するなどにより、理工系分野の女性教員及び女子学生の割合を向上する取組を加速する。
参考URL:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

●2023年度
IT分野を始め理工系分野の大学・高専生、教員等に占める女性の割合向上に向け、女子中高生の同分野の学びや分野選択の促進など産学官連携で地域一体となった取組等を加速するとともに、大学の上位職への女性研究者登用を促進する取組を強化する。
参考URL:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/2023_basicpolicies_ja.pdf

特定非営利活動法人Waffle(ワッフル)
 IT分野のジェンダーギャップ解消を目指し、性自認が女性やノンバイナリーの中高生・大学生・院生に無料でプログラミングを学ぶ場を提供しているNPO法人。中高生に向けた無料のWebサイト作成コース「Waffle Camp」、国際的なアプリ開発コンテスト「Technovation Girls」の国内での出場支援、企業との協働による各種イベントの開催、大学生・大学院生に向けた無料のプログラミング研修「Waffle College」を実施。また、社会構造の是正のために「経済財政運営と改革の基本方針(通称:骨太の方針)」など政策に積極的に提言している。2020年、第4回ジャパンSDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞」受賞。主な著書に「わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書(リトルモア刊)」。

(*1)本プレスリリースでは、日本のIT/STEM分野におけるジェンダーギャップの状況を伝えるため、男女という性別のみに着目した統計データや文言を使用していますが、性を「男」と「女」のいずれかに分類する意図はありません。
(*2)Waffle Camp ホームタウンは、女子およびノンバイナリーの中高生を対象とした、ウェブサイト制作講座です。現役の女性エンジニアによるキャリア講演をプログラムに組み込み、IT分野への進路支援を意識したプログラムを提供しています。2020年よりスタートし、360名超の中高生が受講しています(ご参考情報:2023年度開催レポート)。
(*3)内閣府の「令和元年版男女共同参画白書」によると、中学校で理数科目(数学,理科)を1科目でも女性教員から教わっている女子は男性教員から教わっている女子よりも「自身が理系タイプである」と思う割合が11.3%向上するとされています。
(*4)現在内閣府が行う「STEM Girls Ambassadors」では、7名のロールモデルが認定され、全国での講演を行っています。一方、オーストラリアの「Superstars of STEM」は、年間30名から60名程度のアンバサダーの登録、年間10,000人へ出前授業を提供しています。
(*5)参考情報:経済産業省「IT人材需給に関する調査」。
(*6)海外の大手IT企業や日本の一部のIT企業では、未経験者の学生が企業で働きながら学べる環境が整えられている。特に女性向けの機会として、Build@Mercari(株式会社メルカリ)やWomen Go College(株式会社サイバーエージェント)などの例がある。